犬の気持ちは彼らの行動や表情にしっかりあらわれます。身振りやしぐさで愛情を伝えてくれる健気な愛犬の姿に、励まされ、癒されている飼い主さんはたくさんいらっしゃることでしょう。
犬の行動については“動物行動学”という分野で研究がすすめられ、犬の気持ちを理解するために動物病院やトリミングサロンなどで日々役立てられています。一般の飼い主さんに向けて、飼育マニュアル本などに犬の行動やしぐさについて記載されることも多いです。
今回の記事では、愛犬の行動を読み解き、さらに飼い主さんから愛犬に愛情を伝えるときのコツをご紹介します。愛犬からの愛情表現だと思っていたけれど実は違う意味があるかも…と不安な方や、愛犬にもっと愛情を伝えたいという方は、ぜひチェックしてみてください。
目次
それぞれの愛情表現の意味
まだ愛犬をお迎えして間もない時期には、仲良くなりきれていないのではといった不安もあるかと思います。愛情表現かと思いきや、細かなしぐさの差で別の意味を持っていた…ということもあるかもしれません。より深く愛犬の気持ちを理解するために大切なことは、愛犬の様子をよく見ることです。
たとえばテンションが高いとき、犬の耳や尻尾は自然と上がって元気に動きます。テンションが低いときは耳が伏せられていて落ち着いた行動をするでしょう。愛犬の表情や耳、尻尾の様子を見てみると、なにを伝えているのかより分かりやすくなります。このような耳や尻尾などの情報と表情、雰囲気、前後の行動を総合的に観察し、愛犬の感情表現を読み解いてみてください。
尻尾を振る
尻尾を振る行動は、代表的な犬の感情表現のひとつです。喜んでいるときに尻尾を振る、というのが有名ですが、実はいろいろなパターンと意味があります。
犬の尻尾は、楽しいときだけでなく怖がっているときや警戒心を持っているときにも振られます。愛犬の表情にも感情があらわれるので、どのような雰囲気かよく見て判断を。
おなかを見せる
一般的に『服従のポーズ』として知られるのがお腹を見せるしぐさです。犬にとっての急所を見せることで、犬は目の前にいる相手とうまくやっていこうとしています。
また、構ってほしいときや、撫でてほしいと伝えるためにもおなかを見せることがあります。
体をくっつける
飼い主さんに体をくっつけることは、基本的には愛情や信頼からくる行動になります。
ちなみに、おやつが欲しい(そのとき人間が食べているものが欲しい)ときにも体をピタッとくっつけて前足を乗せてくることがあります。とてもかわいらしい行動ですが、愛犬には人間と同じ食べ物はNGですので注意してください。
じっと見つめてくる
愛犬が飼い主さんを見つめるとき、尻尾や耳の様子はどうでしょうか。大好きな飼い主さんに対しては、飼い主さんの様子を観察して指示がないか確認するためや、構ってもらいたいときのサインとして見つめてくることが多いと思います。信頼する飼い主さんに向けた愛犬のまなざしには愛情と信頼がこもっています。飼い主さんは優しく微笑み返して、愛犬の話を聞いてみてください。
そのほか、犬の目の使い方によっては愛情表現以外の意味を持つこともあります。
実は、慣れない相手に見つめられると、犬はとても緊張します。見つめられることで「相手に喧嘩を仕掛けられている、相手が自分を支配しようとしている」と感じるためです。
まだ仲良くなっていない犬と最初に触れあうときは、目をなるべく合わせないように犬の横にかがみ、犬が嫌そうでない良いタイミングを見計らって鼻先にそっと握った手を差し出し、においを嗅いでもらうとスムーズに挨拶をすることができます。
※このとき、パーにした手を鼻先に差し出したり手をヒラヒラさせたりすると、犬の興奮を呼んでしまい、噛みつきに繋がる場合があるのでNGです。
舐める
母犬と一緒に育てられている子犬は、母犬の口を舐めることで餌を求めたり甘えたりします。成犬同士の場合は、自分よりも強い犬の口元を舐めて、敬意や軽い服従を示すことがあります。愛犬が飼い主さんや親しい人間の顔や口を舐めるしぐさは、これらに共通したところがあります。一方で、犬が自分で自分の鼻や口のまわりを舐めることがありますが、これはまた少し違った意味を持っています。
甘噛みしてくる
子犬の時期から、本能的なものや、乳歯がむずむずするという理由でいろいろなものを噛んで遊ぶようになりますが、人の手や足などを噛むこともあります。噛むときに力が入っていない場合の噛みを「甘噛み」と言います。甘噛みは、母犬や兄弟犬と一緒に育った子犬であれば、犬同士で甘えたりじゃれたりするときにとる行動です。
飼い主さんへの甘噛みも、安心して甘えているためにじゃれてやる行為なのですが、歯の大きな犬種や中型以上の大きさの犬の場合は負担が大きく大変でしょう。甘噛みが癖になってしまったりエスカレートしたりすると単なる「噛み癖」に発展する可能性もあります。噛まれたときに大きな声を出したり声高に叱ったりするのは逆効果なので、落ち着いてその場を離れて噛んでもよいおもちゃを代わりに与えるといった対応を。執拗に甘噛みが続くようであれば、人を噛まないようにしつける方がよいでしょう。
※噛む力は弱くても、甘噛みではなく、すでに噛み癖がついてしまっている場合もあります。恐怖やストレス、運動不足やさみしさなどから噛んでいるような場合には、まず原因となっている部分をできるかぎり解消して、人間を噛まないようにしつける必要があります。
おしりを向ける
犬にとって、おしりは特別な場所です。おしり(肛門腺)から発する特有のにおいには自分の情報がつまっていて、おしりを嗅ぎあうことが犬同士のあいさつになりますし、自分の体の中で視界に入らないためとても無防備な部分なのです。
背中を向けられたりお尻をくっつけられたりすると、なんだかそっぽを向かれているようでさみしい気持ちになる飼い主さんも居るかもしれませんが、愛犬にとっては最大限の信頼と愛情を向け、心からリラックスしているような状態です。もし愛犬が飼い主さんにおしりを向けて落ち着いた様子で座っていたら、背中~尻尾の付け根あたりを優しく撫でてあげてください。愛犬はより安心し、飼い主さんの愛情を感じてくれるはずです。
飛びつく
まるで全身で愛情を表現しているかのような愛犬のしぐさといえば「飛びつき」ですが、体の大きな犬やいつまでも飛びつきが続いて終わらないという場合には飼い主さんにとっても負担ですし、ジャンプを繰り返すため愛犬の身体にも負荷がかかる場合があります。
愛犬の意図するところを知って早めに対応し、興奮させすぎないよう気をつけてあげてください。飼い主さんがある程度コントロールできるのであれば、飛びつきをほどほどに抑えるようしつけをするとよいでしょう。ヘルニアになりやすい胴長、短足の体型を持つ犬種の飛びつきには特に要注意を。
飼い主や家族の服の上で寝る
基本的には飼い主さん服の上に寝ること=飼い主さんに対する愛情と好意がもとになっている行動といえるでしょう。犬はとても嗅覚が優れていて、好きなにおいと嫌いなにおいがあります。仮に、部屋が寒くて飼い主さんの服で暖をとっているだけだとしても、よほどのことがない限りわざわざ嫌いなにおいがするものの上には寝ません。ただし室内が寒すぎる場合には、洋服で暖をとらなくても済むように室温を調節してあげてください。
また、過去に服の上に寝たとき飼い主さんが「うわー!やめて!ダメでしょ!」などと大きく反応してしまった経験がある場合は、飼い主さんの気を引きたくてわざと服の上に寝ることもあります。飼い主さんが喜んでいると勘違いしている可能性も…。
服の上に寝るのをやめて欲しいときは、なるべく反応をみせず、さっと片付けてしまうなど冷静に対処した方が効果的です。
寄り添ってくれる
人間や母犬などに愛された経験を持っていれば、犬も人間や同居している動物に対して愛情をもって接することができると考えられています。寄り添うことでぬくもりを分け合い、物理的に暖をとっているというケースもありますが、飼い主さんらの表情や雰囲気を見て、あたたかい気持ちからそっと寄り添うこともあるでしょう。大切な存在と一緒にいることで幸せになるのは犬も人も同じことなのです。
垂れ耳の犬や、尻尾がない(短い)犬は?
犬の耳は、緊張や興奮、警戒しているときにピンと立ちます。反対にリラックスして安心しているときや、おびえて萎縮しているときや不安で心細いときの耳は、後ろに下がったりペタンと寝たりします。立ち耳の犬種の場合はとても分かりやすいです。
もちろん、ダックスフンドやビーグルといった垂れ耳の犬種でも感情とともに同様の動きをしています。耳全体がパッと立ち上がるということはないですが、耳の付け根が中央や前方に寄ったり、全体的に持ち上がったりしている状態が、垂れ耳の犬にとっての“耳が立っている状態”です。耳をペタンと倒しているときは、付け根が下がっているように見えます。
尻尾がない(断尾している)犬や、生まれつき尻尾が短い犬の場合、尻尾の動きから細かい感情表現を読み取ることは難しいかもしれませんが、尻尾で感情を表現していることには変わりありません。表情や耳の動きなどと合わせてみてみるとわかりやすいと思います。
※病気やけがなどの理由なく行う断耳や断尾(ドッキング)については、現在ではアニマルウェルフェアの観点から世界的に必要性が見直されつつあります。しかし日本ではまだ習慣としてのドッキングがなくなっておらず、犬にとってのメリットはないにもかかわらず生後間もない子犬のうちに獣医師やブリーダーのもとで施される場合があります。
愛犬に伝わる、飼い主からの愛情表現
飼い主さんからの愛情を愛犬に伝えるためには、どのように表現すればよいでしょうか。次にご紹介する方法を参考に、愛犬の好む触れ合い方や時間の過ごし方をしてみましょう。犬によって撫でられるのが好きな甘えん坊やおとなしい犬、スキンシップより散歩や走るほうが好きな犬、おうちでの抱っこが好きな犬など色々な個性がありますので、愛犬が好みそうな方法を探してみてください。
撫でる、マッサージをする
一般的に犬が撫でられてうれしい部位は、次の部分です
。基本的に、やさしく触れると喜んでもらえます。
おなかを見せているときに胸のあたりをゆっくりさすってあげたり、おしりをくっつけてきたときに尻尾の付け根あたりをさすったりするのも効果的です。
頭部周辺は敏感なので、穏やかに声掛けをしながら撫でるようにしましょう。
足先を触られるのが苦手な犬は多いのですが、身体を支えている脚には負担もかかりやすいです。足の根元まで流すような形で優しくもんだりさすったりすることでマッサージ効果があります。
反対に、犬にとっては触られるのが苦手な部分もあります。
ただし、これらの部分も含めて体中どこでも触らせてくれるように育てたほうがよいです。何らかの病気や爪切りやトリミングなど日々のお手入れの際、触られることが平気な犬の方がストレスを感じにくく、人間も施術等がしやすいためです。子犬のうちから、撫でられてうれしい部位から触る練習をスタートし、徐々に苦手な部分も触れるようにしましょう。
マッサージ中にリラックスしておなかを見せたり仰向けに寝そべったりする犬はいますが、そのようにしないからといって愛犬に強制的におなかを見せるポーズを取らせる必要はありません。強制的に服従のポーズをとらせないようにしましょう。
話しかける、ほめる
犬は、飼い主さんのやさしい声や、ほめ言葉に込められている飼い主さんの嬉しそうな気持ちが大好きです。愛犬がなにかよいことをしたらたくさん褒めてあげてください。愛犬は「これをすると飼い主さんが嬉しい」と学習して、多くのよい行動ができるようになっていきます。
ただしハイテンションすぎる声掛け、赤ちゃん言葉や甲高い声で話しかけたり叱ったりすることは、犬にとっては興奮材料になってしまいます。飼い主さんに興奮させるつもりがなくても、本能的に興奮してしまい、落ち着きなく動き回ったり、失敗したりしてしまうので、ほめるときであっても愛犬とはできるだけ落ち着いて対話を。また、目を見て叱ったり大声で怒鳴ったり、名前を呼んで怒る(「ポチ、ダメ!」などのように)行為は、犬にとって非常に強いストレスになりますのでやらないように気を付けましょう。
時間を共有する、一緒に居られる時間を増やす
愛犬にとって飼い主さんと過ごす時間はなによりも楽しいものです。留守番がやむを得ないというご家庭は多いと思いますが、なるべく愛犬と一緒に過ごす時間を作ってあげていただければと思います。社会化を兼ねて一緒にあちこちへ出かけたり、愛犬が好きなことをして過ごしたりすれば、飼い主さんの愛情はたっぷり伝わることでしょう。
一緒に遊ぶ、散歩を楽しむ
愛犬とすごす時間をたくさん作ることが難しいという方もいらっしゃると思います。なかなか休みが取れない、出かけられないという方は、毎日の散歩や室内遊びの時間に愛犬としっかり向き合ってあげてください。一緒に遊ぶ時間や散歩を楽しんでいれば、愛犬にも「一緒にいると、飼い主さんも楽しそう」と伝わります。そうすれば、愛犬はより散歩や遊びを楽しんでくれるはずです。
まとめ
犬と言えば、スタミナ抜群でタフ、活発、賢く聡明…そんなイメージを持たれている方が多いと思います。どれもが当てはまることは確かですが、犬は、実はとても繊細な生き物です。
ストレスを感じたり不安になったりしやすく、精神的に安定していないと問題行動に繋がったり、健康を損なうこともあります。愛犬の愛情表現を受け止め、飼い主さんもたっぷりの愛情をやさしく伝えてあげていただけたらと思います。