数あるペットの中で、犬は特に臭いといわれる生き物ではありませんが、動物らしい“におい”は持っています。飼い主さんご自身は愛犬のにおいが気にならなかったとしても、来客があるときは気になってしまう方もいらっしゃるようです。中には「犬を飼ってみたいけれど、体臭がきつかったら困るな…」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
そんな“犬のイヤなにおい”はどこからやってくるのでしょうか?
実は、犬のにおいには明確な発生源があり、ただの“におい”が、より“イヤなにおい”になってしまう原因が存在します。においのケアをすることは愛犬の健康維持に繋がっていて、適切に対応すれば、犬も人もとても快適に過ごすことが出来ます。
今回は、においが少ない犬種の紹介とあわせて、犬の“においケア”について解説いたします。
目次
愛犬のにおいのもとはどこ?
犬の身体は、人間の身体とは異なる構造を持っています。犬のにおいの原因としてよくあげられるパーツ毎にイヤなにおいの原因を解明します。
口臭
犬は自分で歯ブラシを使って歯を磨くことが出来ないので、飼い主さんによるデンタルケアが重要です。磨き残しやうまくハミガキが出来ない日が続くと、たちまちイヤな口臭が生じてしまいます。
犬の歯垢(食べかすや歯の表面に付着した細菌の塊)には、たった1gの中におよそ1億個もの細菌が住んでいるといわれていて、人間よりも速いスピードで歯石(歯垢が硬く固まったもの)に変化します。歯石は通常のハミガキでは落ちず、更に歯垢が付着しますので、あっという間に口内が細菌だらけになってしまうため、歯周病になる率が高くなっています。
こうした口内の病気やトラブル、磨き残しなどから強烈なにおいが発生していきます。
体臭
犬は人間と違って全身から汗をかくということがありません。これは汗腺の構造が人間とは異なっているためです。犬の汗腺はほとんどがアポクリン腺と呼ばれる分泌腺で、ここから資質やたんぱく質を含んだ分泌液(フェロモン)が出ています。アポクリン腺は犬の全身に存在し、独特な体臭のもとになっているのです。独特なにおいではあるものの、ただ分泌されているだけでは強烈なにおいというほどではありません。しかし、分泌液や皮脂が酸化して雑菌が繁殖すれば、だんだんにおいが強く、きつくなってきます。
肛門腺
肛門腺の分泌液には個体差があり、犬によって違います。犬同士があいさつするときにお尻のにおいを嗅ぎあうという仕草が見られますが、これは肛門腺のにおいを嗅いで相手を確認(個体を識別)しているものと考えられています。ちなみに、犬以外の多くの哺乳類が肛門腺を持っていて、例えばイタチやスカンクは「おならが臭い」というイメージがあると思いますが、これは彼らが外敵から身を守るために肛門腺から出すにおいから来ています。
犬は、通常であれば排便の時に肛門腺に溜まっていた分泌液が便と一緒に排出されますが、うまく排出できずに溜まってしまうと臭いが強くなります。小型犬は特に排出がうまくできないことが多いといわれています。溜まったままにしておくと、炎症や細菌感染に繋がる場合もあります。
各原因への対処方法
犬のにおいが強くなるのは、基本的に“汚れや分泌物が溜まって細菌が繁殖したり酸化したりすること”が原因です。そのため、適切なケアを行うことである程度においを軽くすることが出来ます。つまり、愛犬の身体をきれいにしてあげればにおいが少なくなるということです。愛犬の健康のためにも、それぞれのパーツ毎にしっかりとケアを行いましょう。
口臭の場合
ハミガキを習慣づけることが大切です。
歯垢はどんどんたまってしまうので、飼い主さんが毎日しっかり歯を磨いてあげましょう。最も汚れやすいのは奥歯、続いて犬歯の根本あたりといわれています。食べ物をかみ切るときなどによく使う歯なので隅々まで磨かなければなりません。
犬の歯周病の原因となる細菌は、歯垢の中に住んでいます。歯垢は2~3日で歯石となり、その固まった歯石の上に新しい歯垢(細菌)が溜まって、やがて歯周病になります。人間に比べると、犬の口内は虫歯菌が少なくて歯周病菌が多いため、歯周病になりやすいとされています。歯を磨いてもにおいが軽減しない場合は、すでに歯周病になってしまっている可能性もあります。
歯周病が悪化すると、口臭だけでなく、歯茎から出血したり穴が開いたりして食べ物が食べられなくなるなど大いに健康を損ねるケースも見られますので、動物病院での治療が必要です。内臓の疾患などから口臭が発生している可能性も考えられますので、愛犬の口臭が酷い・歯磨きでは改善しないと思ったら、早めに受診したほうがよいでしょう。
体臭の場合
体臭が臭いと感じる場合は、ブラッシングやシャンプーで清潔を保ちましょう。
犬のシャンプーの目安は月1~2回程度です。ブラッシングをして抜け毛や汚れを落としてから泡立てたシャンプーで隅々まで洗い、すすぎ残しのないようよく流したらしっかりとドライヤーで乾かします。ごしごしと力を入れてしまったり、頻繁に洗いすぎると、皮膚を傷つけたり皮脂トラブルに繋がったりしてかえって皮膚の状態や体臭が悪化することもあります。犬種によっては被毛が長く汚れやすい犬もいるので、散歩や食餌の後にすぐ洗いたくなってしまうこともあると思いますが、ブラッシングやふき取り、簡単な部分洗いなども取り入れてみてください。
ブラッシングは、皮膚を傷めないようにすることが出来れば頻繁に行っても問題ありません。こまめにブラッシングすることは愛犬の健康促進にも良い影響があります。力を入れすぎず、スキンシップの延長のつもりで日々の習慣にしてください。皮膚の新陳代謝が促され、抜け毛やホコリ、毛の絡まりが解消されて、より美しく健康に過ごすことが出来ます。
肛門腺の場合
肛門腺の分泌物がうまくない出できないと、かゆみや違和感からお尻を気にする様子を見せるようになります。そうなる前に愛犬の様子を見て、定期的に肛門腺絞りを行うとよいでしょう。指の腹を使って優しく絞りだすように行います。自分でやるのは不安という方は、動物病院やトリミングサロンのグルーミングなど、プロに依頼するのもおすすめです。
その他
①トイレはすぐに片付ける
→イヤなにおいが発生しやすい場所のひとつに、愛犬のトイレスペースがあります。
排泄物はにおいが強いので、室内にペットシートを設置して排泄させている場合は、こまめにシートを取り換えてシート周辺の清潔を保ちましょう。掃除の際は、消臭・除菌効果のあるスプレーで、トイレトレー・フローリング・壁などもふき取ると効果大です。蓋つきのゴミ箱や防臭効果のある袋も取り入れれば、よりにおいを少なくできます。
②食べ残しやおもちゃはそのままにしない
→愛犬が食餌を食べ残したら速やかに片付けてください。食べかけのおやつなども同様です。おもちゃやタオルなども、ある程度使ったら清潔に洗うようにしましょう。
③耳掃除をする
→ビーグルやスパニエル種など垂れ耳の犬種、またはプードルのように耳の中まで毛でおおわれている犬種は、耳の中が蒸れやすくなっているので、耳掃除を入念に行わないと耳からイヤなにおいが発生します。外耳炎になってしまう恐れもあるため、日常的に耳掃除をしてあげてください。
においが比較的少ない犬種とは
被毛の長さなどの違いからにおいが気にならない犬種がいます。個体差や飼育環境による違いは生じますが、においの少ない犬が飼いたいという方には次の犬種がおススメです。
トイプードル
トイプードルは巻毛で長毛のためトリミング必須の犬種ですが、シングルコート(薄い被毛)なので、毛が蒸れたり体臭がこもったりしにくくにおいが少ない犬種です。毛の伸びるスピードが他の犬種と比較しても早いといわれていて、頻繁にサロンでカットしなければならないのですが、そのため定期的にプロのグルーミングを受けている子が多く、かえって被毛や耳などのケアが行き届きやすいようです。
また、甘えん坊でとても人なつっこい性格の子が多いので、ハミガキや耳掃除、ブラッシングなどで飼い主さんやトリマーに触られても、あまり嫌がらずに受け入れてくれるという嬉しい特徴も。ただし口のサイズに対して歯が大きく、汚れが溜まりやすい&隅々まで磨きにくい構造をしています。口内トラブルが生じやすいので、デンタルケアはしっかりと行う必要があります。
パピヨン
パピヨンには、被毛が豊富なダブルコートタイプと、被毛が薄いシングルコートタイプが存在します。シングルコートの場合は、抜け毛が少ない&肌への通気性がよく皮膚が蒸れにくいため、体臭からくるにおいが抑えやすいようです。特にトリミングが必要な犬種ではないので、日常的に自宅でしっかりケアしてあげましょう。
蝶のような、美しい耳の飾り毛が特徴的な犬種です。耳の中までしっかりと毛が生えているため、耳のトラブルを抱えやすくなっています。パピヨンの中には珍しい垂れ耳を持つ個体も存在しますが、いずれの場合も耳掃除を忘れずに行うようにしましょう。
マルチーズ
マルチーズは、伸ばせば引きずるほどに長くなる被毛の犬種です。定期的なトリミングが必須ですが、サロンなどで短くカットしていても、やわらかくもつれやすい純白の被毛のために非常に汚れやすくなっています。自宅での日ごろのブラッシングやふき取りなどのお手入れが欠かせません。垂れ耳なので耳掃除も忘れずに。
こうしたこまめなケアが必須にはなりますが、お手入れ一つ一つの内容は複雑ではないので、日々気を付けておくことで清潔を保つことが出来ます。被毛は豊かに見えますが、実はシングルコートで通気性が良く、比較的抜け毛も少ないので、においは抑えやすいです。
まとめ
飼い主さんの中には、愛犬の独特のにおいが大好きという方も多いと思います。しかし、行き過ぎたにおいは人間にとっても愛犬の健康にとっても不快をもたらすため最適なケアが必要です。基本的には愛犬の身体を清潔に保ち、衛生的な室内で飼育することで、ある程度においを抑えることが出来ます。ペット用の消臭スプレーや防臭袋を合わせて活用すれば、においの問題はかなり改善するので、ぜひ実践していただければと思います。
ただ、愛犬のにおいが気になるからと言って、何もかもから極端ににおいを排除しようとすることは実はあまりおすすめではありません。犬は自分の居場所から自分のにおいがすることで安心する生き物です。程よい体臭は心の安定に繋がりますので、愛犬がストレスを感じない範囲で犬と人お互いが心地よく暮らせるように工夫してみてください。